終身雇用や年功序列が崩壊するってホント?【ワーケーションって何?】

※このコラムは、別の場所で今年の2月頃に書いたもので、新型コロナウイルスの流行前のものです。
たった数か月前と今とで大きく世の中は変わり、早くも実情に合わなくなっているところもありましたので、加筆修正をしています。

当時と状況は大きく変わりましたが、思い返せばコロナウイルスが流行する前から景気は下降気味でしたね。
そして、会社と従業員の関わり方に変化が起こりそうだな、という予測はコロナウイルスによって加速されました。
世の中の変化のスピードに法の対応が追い付いていないと感じていましたが、先日、菅官房長官より「ワーケーション」という言葉が飛び出してきたり、いよいよ法律にも手が入ってきそうな情勢です。これからどう変わっていくのでしょうか。
それでは、本編です。

令和が始まってすぐの5月、経済界の大御所による『終身雇用を守っていくのが厳しくなってきている』という発言をうけ、終身雇用や年功序列の終焉がとうとう来たかと感じた方も多いのではないでしょうか。
その発言に呼応するように、大手企業による早期退職者募集のニュースが続いていますが、驚くことに、業績好調な企業もリストラや早期退職募集を打ち出しています。

日本型雇用の代名詞でもある、終身雇用や年功序列は本当に終わってしまうのでしょうか?

そんな時代に、中小企業は人事施策において、何を考えて動けばいいのかというところに焦点をあてて考察していきます。

 

HR

 

 

1.発言の真意は?

まずは、発言内容のおさらいをしたいと思います。

経団連 中西会長 の発言
「高品質なものを作って世界に売る、というビジネスモデルであった高度経済成長期には、一括採用から徒弟制度で鍛えるという人材育成は効率的であった。しかし、ビジネスモデルそのものが変わり、日本は知恵(intelligence)で勝負しなければいけない時代になった。これからは、やる気のある人達が集まって成功体験を重ねていくという育成方法に変わっていかざるを得ない。自分に何ができるのかを宣言して、自分のキャリアを自分で設計しないと給料はあがらない。」また、「給料を決めるのは会社ではなく、マーケットが決める時代だ。」

トヨタ自動車 豊田社長の発言
2019年5月に行われた、日本自動車工業会の会見の中で「終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきた。終身雇用を守るインセンティブが企業側にあまりない。」とお話されています。しかし、同年の春闘の中では「会社は従業員の幸せを願い、組合は会社の発展を願う。そのためにも、従業員の雇用を何よりも大切に考え、労使で守り抜いていく。」というお話しもされています。

想像するに、このお二方の真意には違いがありながら、このまま終身雇用を維持していくのは難しいというところでは一致しているんじゃないかと思います。豊田社長の真意はどちらかというと、「雇用を守りたい、だから従業員の皆は何とか頑張ってくれ」という激励の意味が込められている様に感じました。そして国に対しても何らかの対応を求めているような印象を受けました。

 

2.企業がこれまで終身雇用を続けてきた理由

これまで大企業では当たり前の様に守られてきた終身雇用、これがなぜ急に維持することができないと言われているのでしょうか?

これは、中西会長のおっしゃられた内容の通りで、ビジネスモデルが変わってしまったことで企業に求められる人材が変わった、という事だと思います。高度経済成長期は、『高品質なものを作れば売れた』という時代でした。決まった事を実直にこなしてくれる人ほど経験曲線効果※1が大きくなり、収益性を高めてくれる人材と位置付けられていました。だから企業は終身雇用を約束し、年功序列を推し進めて、長期にわたり会社に忠誠を誓ってくれる人材を育成してきました。

しかしながら、現在はインターネットの発達により情報が氾濫し、価値観が多様化する中でPLC(製品ライフサイクル)が非常に短くなってきています。つまり、新しい価値を次々と生み出さなければ早々に淘汰される世の中になってきているのです。こういった時代では、新しい技術や知識を自ら学び、自由な発想を生み出す社員が重宝される割合が高まっていきます。

 

 

※1経験曲keikenkyokusen線効果

経験値が増えてノウハウが蓄積されることにより、製品一つあたりの製造コストが下がる事

下図の通り、累積生産量が増えていくほど、単位あたりのコストが逓減するという理論

 

 

 

 

3.今後の展望

さて、こんな時代の背景を踏まえて、実際に日本の雇用はどのように変わっていくのでしょうか?
現在の構造、各企業の施策、制度の面から順に考察していきます。

 

①現在の構造

企業における組織は、ほぼ全てがピラミッド型になっています。言われるまでもなく、上に行けば行くほど間口は狭く、そこに向かって出世レースが進んでいくわけですが…。

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実際にピラミッドの頂点にたどり着ける人はほんの一握りでしかなく、その一握り以外の人の中にはモチベーションを保つのが難しくなっている方もいるかもしれません。

 

 

 

 

経営としては

  • 経営環境の変化やビジネスモデルの転換により、やる気に溢れていて、新しい技術や知識を持った人材を登用していきたい
  • 中高年層への高い給料支払いで、思うように資源配分ができない
  • 全員を新卒一括採用からゆっくりと育てていく余裕がない

こういった問題を解決するべきだと捉えた企業は、次々に課題解決策に乗りだしました。人への投資効果を考えた場合、年功ではなく力・やる気のある人にしっかり配分する、といった舵を切りだしたということだと思います。

 

②各企業の施策

大手企業が課題解決に乗り出した結果、早期退職者の募集が加速しました。

2019年から2020年初頭にかけて報道された早期退職者募集について、企業ごとの施策を一覧表にまとめましたのでご覧ください。

企業対象年齢人数
朝日新聞45歳以上不明
ルネサスエレクトロニクス35歳以上1,500名
富士通45歳以上2,850名
みずほ証券50歳以上1,100名
ファミリーマート40歳以上800名
オンワード40歳以上300名

※筆者が新聞などから独自に調べたものであり、内容を保証するものではありません。

上記以外にも2019年には沢山の早期・希望退職者の募集は行われ、過去5年で最多を更新しています。35歳以上や40歳以上からも対象になるなど、比較的若い世代からも募集されていることに驚きます。朝日新聞の早期退職者募集では、退職金が最大で6,000万円と報道されて大変な注目を集めていました。
このコラムを書いた当時(2020年2月)は、直前まで超人手不足といわれ、中小企業での採用がバブル時代を彷彿とさせる競争率だったにも関わらず…です。

 

③制度の面からみた終身雇用と年功序列

続いて、制度面からみた終身雇用や年功序列について考えていきましょう。

日本の雇用契約では、正社員には期間の定めのない労働契約が結ばれます。終身雇用を定める法律はありませんが、雇用権乱用法理にみられる通り、よほどのことがないと企業は人を解雇をすることができません
このあたりが日本の終身雇用と言われる制度を大きく後押ししてきた要因でもあります。

 

 

終身雇用を支えてきた職能資格制度

日本では、職能資格制度という賃金体系が一般的です。koyouこれは、会社の求める業務を遂行する能力に対して評価を行う制度です。能力は落ちることがないという考えに基づいて作られているため、会社に長く勤めるほど、給料が高くなっていく仕組みになっています。

しかしながら、求められる能力は時代とともに変わります。勤続年数の長い人ほど会社が求める能力を発揮している、とは一概には言えない状態になってきています。限りある経営資源を効率的に投下したいと考える企業にとっては、年功序列よりも求める能力を持っている人材を中途で採用する方が効率的だと考えてもおかしくありません。

職能資格制度に対して、ほぼ180度考え方の異なる職務等級制度という評価・報酬制度があります。
これは成果給(ジョブ型)と言われるもので、「この仕事ができる人に対してはこの給料です」といったことが明確になっています。こういった仕組みが主となっている地域では、転職しても給料が下がりにくく、また会社にもたらす成果と報酬のバランスが大きく崩れることがありません。テレワークが進むことで最近注目を集めている制度ですね。

ただし、この仕組みにも課題はります。同じ仕事でより給料の高い会社があれば、すぐに転職するといった事が起こりやすい、会社に対する忠誠心を高めることが難しいといった部分です。職務の評価についても、必要に応じて(これが難しい)見直しを行い、高い精度で職務評価(難易度・所要時間・専門性・関連部署の大小・経営への影響度など)を行わないと不公平が生じます。様々なことが目まぐるしく変わる現代において、職務の難易度や必要な労力を正確にもとめるのはなかなか難しいかなと思います。

余談ですが、
人事評価や報酬制度の在り方というのは永遠の課題だと思います。
『普遍的な真理』みたいなものはいくらかあるとは思いますが、企業としては「その時点の最善を経営が必死に追い続けるしかない」というのが私の意見です。
「テレワークだからこうすればいい」などと安易にフレームにはめてみても上手くいきっこありません。

 

年功序列について

上にも書いた通り、過去のビジネスモデルにおいては経験を重ねれば重ねるほど経費削減効果が見込めたことから、長期間に渡り在職してくれる社員が報われる仕組みが作られてきました。しかしながら現在においては、年功が会社にもたらすメリットよりも、新しい知識や技術をもたらしてくれる人材の方が有用であると判断されつつあります。

今後は、職能資格制度の見直しと同様に、長く勤めることよりも、求められる能力に近い人材が短期的に必要とされる、といった時代になっていくかもしれません。

法整備が進んだとしたら、AIの進化も相まって人材の流動化が一気に加速しそうです。

 

④今後の展望

 

テレワークでは、プロジェクト単位やジョブ単位といった切り分けられた仕事を実行していくことになります。
そして切り分けられた仕事をこなすだけなら、ゼネラリストである必要はありません。
社員を雇うということは、出来る人・出来ない人に関わらず長年にわたるコストを負担することになります。
人件費をコストと言ってしまうのはどうかという意見もあるかと思いますが(投資とも言えますね)クラウドワークスなどフリーランスが活躍できる場が整うことで、リスクを抑えつつ安価で腕のいいフリーランスを活用するといったことも可能となっていくでしょう(早くもYahooがギグパートナーを募集していますね)。
「新卒一括採用からゆっくりと全員を育てていく余裕がない」と話のあった通り、ゼネラリスト育成は本当に限られた一部の人だけが対象になっていくかもしれません。

中西会長の話の中で、やる気、力のある中途人材の活用を積極的に行い、力や成果に応じた報酬に切り替えていく(これ、コロナ前の発言です)という話もありました。人材の流動化が加速し、多くの人が短期プロジェクトチームの様な働き方に変わっていく事も考えられます。こうなった場合、求められる力に年齢は関係なく若い人でも高い報酬を得られる可能性が高まります。成果に応じた報酬が効果的に配分されれば、経済の活性化が大いに期待できます。

やはり、終身雇用や年功序列といった仕組みは近いうちに見直されていくことでしょう。

しかしながら、日本はバブル崩壊後に「今までの日本式経営が悪かったんだ」といった声が高まり、欧米型の成果主義を取り入れました。結果は皆さんご存知の通り、失敗に終わっています

経営の神様と呼ばれた松下幸之助氏が世界恐慌の時に「生産は即日半減するが従業員は一人も減らさない」と宣言したことは有名です。豊田社長も従業員の雇用を何よりも大事に考え、労使で守り抜いていくと宣言しています

なんとか経営の力で雇用を守り、かつ経済の再建を果たして欲しいと願っています。

 

4.ワーケーションとは

さて、ここでちょっと繋がりが悪いですが、いま話題のワーケーションについても考えてみたいと思います。

ワーケーションとはアメリカ発祥の、ワークとバケーションという言葉から作られた造語です。言葉の通り、働きながら休暇をとることを意味します。
IT産業のような出社勤務が必ずしも必要でない業態がサテライト・オフィスとして利用するようになったことで広まりました。
働く個人としては、都会の喧騒から離れて通勤ラッシュからも解放され、豊かな自然環境や落ち着いた雰囲気の中で働くことで創造性や生産性を向上させることができると言われます。
さらに、滞在地にとっては人口の増加や地元での消費に伴う経済振興につながるといった、とてもメリットの多い制度です。

でもこれって、新型コロナウイルスの感染拡大をうけてテレワークを導入する企業が爆発的に増加した際にも、同じようなことが言われていませんでしたっけ?

そうなんです。
メリットもありますが、労働と休暇の線引きが難しいとか、旅先で事故にあった場合は労災になるの?労働時間の管理はどうするの?など、テレワークで生じうるデメリットも同じようについて回ると思っています。
労働関連の法律、全く対応できていません笑
だから、法の整備も・・・なんて言葉がでてきたのもうなづけます。

※テレワークのメリットデメリットを書いたコラムです

しかし、いよいよこれで法律にもメスが入るかもしれませんね。

 

5.中小企業の進むべき道

さて、3章まで話が巻き戻りますが、早期退職者募集企業の一覧にある通り、近年は35歳以上が対象となるなど、中堅どころかまだ若手に属していてもおかしくない層からも早期退職者の募集が出ています。
私はこれ、中小企業にとってはチャンスだと考えています。

上でもお伝えした通り、中核となる人材は今後も確実にフリーランスでは賄えません。

そこで中小企業診断士として、中小企業経営者の皆様に2つご提案いたします!

 

①中途社員の積極採用

大手企業ですら、新卒一括採用からのんびり育てている暇はない、と言っている時代です。人材の流動化は加速し、少し長い目で見れば短期プロジェクトチームのような働き方も一般的になるかもしれません。

ここで若手や新卒にこだわる必要は全く無いと思います。少し先の未来も予想しにくい時代に、中堅や年長者を雇用することは、リソースを十分に持てない中小企業にとってうってつけの人材活用ではないでしょうか?もともとの能力や大手企業のノウハウを持った人材を登用するべく、中途採用を大いに活用しましょう!

Indeedの登場により、採用コストはどんどん下がっています。ちょっと知識があれば、お金をほとんどかけずに採用することも可能です!

 

②受入態勢の構築

中途人材にちゃんと腰を据えてもらって、しっかり成果を出してもらうためには、会社の制度もバッチリ整えなければなりません。

早期退職に応じてきた方々は一時的にモチベーションが下がっているかもしれません。しかし、中小企業ならではの出来ることは沢山あります。むしろ中小企業経営者である皆さんにしか出来ないことばかりだと言えると思っています。

大企業が諦めて手放した人材を、自社でしっかりと宝物に育てあげて業績アップに繋げていきたいところです。大きな裁量を渡して、しっかり頑張りに報いて、もともと持っている能力を存分に発揮してもらいましょう!

 

6.終身雇用崩壊に対して思うこと

この30年間、日本の経済は成長しておらず、ついには失われた30年と呼ばれるに至りました。正直、今の経済状況で終身雇用や年功序列を維持していくのは難しいのではないかと思っています。しかしながら私には、その責任が早期退職募集の対象になる方々だけにあるとは思えません。

この状況を打開したいですね。

今後、労働関連の法律がどう変わっていくのかはわかりませんが、予想としては人材の流動化を進める かつ テレワークやプロジェクト型ジョブなど、国というマクロで見た人材の最適化が進んでいくのではないかと思います。

すぐ先の未来も想像する事が難しい現在、に対する考え方を見直す、あるいは再確認する必要に迫られています。会社と社員の関係性が変わっていくことは間違いないでしょう。

長い目でみれば、いずれはAIの進化によって人間の仕事はほとんどなくなるかもしれませんが、、
そんな遠い先の話をしていても仕方がないので、中小企業経営者の皆様、サラリーマンの皆様、いまやれることをしっかりやって、近い将来に備えましょう!

 


最後にもう一度、、これはコロナウイルス流行前に書いたコラムです。
今は人事的課題よりも、企業の存続をかけた戦いに日々奮闘されている経営者様ばかりだと思います。
私も微力ながら、中小企業のみなさまのお役に立てるよう、慌ただしくお手伝いさせて頂いております。
一社でも多くの企業様が、この危機を乗り越えられるよう祈っております。

 

 

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